東京高等裁判所 平成8年(行ケ)193号 判決 1997年7月10日
アメリカ合衆国オハイオ州 43666 トレド ワン シーゲイト
原告
オーエンスーイリノイ プラスチック プロダクツ インコーポレーデッド
代表者
ハワード ジー ブラス
訴訟代理人弁理士
川原田一穂
同
阿部正博
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
米田昭
同
幸長保次郎
同
吉野日出夫
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者が求める裁判
1 原告
「特許庁が平成6年審判第15144号事件について平成8年2月27日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和63年5月2日に名称を「セルフドレイン容器」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願(昭和63年特許願第107780号。1988年2月25日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権主張)をしたが、平成6年5月16日に拒絶査定がなされたので、同年9月9日に査定不服の審判を請求し、平成6年審判第15144号事件として審理された結果、平成8年2月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年5月13日原告に送達された。なお、原告のための出訴期間として90日が附加されている。
2 本願発明の要旨(別紙図面A参照)
外面にねじを有する閉鎖キャップに関して使用される排出部を有する一体化成形容器であって、開口を有する本体部と該本体部から上方に伸びる環状壁部であってその最上部および内面ねじを有する環状壁部、該内面ねじの下方にあり、該環状壁部から内方にかつ上記開口に向かって延びるウェブ部、上記ウェブ部の外周から延長する上記環状壁部と共軸に配置され、上記開口を画定しそして上記最上部を超えて延長する排出口スパウトであって、このスパウトは上記環状壁部と上記ウェブ部と共に溝部を画定し、この溝部はドレイン口を有してこのドレイン口は、上記容器が直立位置にある時は上記溝部に貯まった流体を上記開口に流出させることからなる上記容器
3 審決の理由の要点
(1)本願発明の要旨は、その特許請求の範囲4に記載された前項のとおりのものと認める。
(2)これに対して、昭和59年特許出願公開第152160号公報(以下、「引用例」という。別紙図面B参照)には、「(a)分与オリフィスを備えた上方突出端部を有する液体収容容器と、(b)外側へ突出した注出口と、内外面に固定装置を備えた外周壁部と、こぼれた液体を前記の分与オリフィスに送るドレン手段とを有し、前記容器端部上に取付けられる遷移部鍔と、(c)蓋としても役立つ計量カップであって、この計量カップは唇部に終わる開口を有し、またこの開口を包囲するその外面上に固定装置を形成され、前記固定装置は前記遷移部鍔上の固定装置と協働して、計量カップをその逆転状態で前記遷移部鍔の上に取付けるようにした計量カップと、を含む液体製品の注出および計量パッケージ」(特許請求の範囲1)
「遷移部鍔14は第2図と第4図に最もよく示されているように、外周を限る円筒形外壁部50と、外側に突出した注出口52と、切頭円錐形上面を有する肩部57と、傾斜したドレンバック仕切55とを有する。」(4頁左下欄5行ないし9行)
と記載されている。
引用例記載の「外面上に固定装置を形成された蓋としても役立つ計量カップ、液体収容容器、上方突出端部と同端部上に取付けられる遷移部鍔の内外面に固定装置を備えた外周壁部、傾斜したドレンバック仕切、外側へ突出した注出口」は、それぞれ、本願発明の「外面にねじを有する閉鎖キャップ、本体部、本体部から上方に伸びる環状壁部であってその最上部および内面ねじを有する環状壁部、環状壁部から内方にかつ開口に向かって延びるウェブ部、最上部を超えて延長する排出口スパウト」に相当する。
また、引用例の「このドレンバック仕切55と肩部57は、外壁部50を上部と下部に分割する横方向仕切をなし、この仕切が通気/ドレン穴54を有し、この穴54はドレンバック仕切55の最下部を貫通している。」(4頁左下欄9行ないし12行)、「ドレンバック仕切55は、ドレンバック肩部57の内周部と注出口52の外側面とに対して一体的に取付けられる。この仕切55の傾斜の故に、切頭円筒形壁部51が仕切55と肩部57の内周とを連結して、通気/ドレン穴54以外の部分における鍔14の上部と下部の分離を完成している。……鍔14の上部において注出口52は鍔14の軸線と一致している……」(5頁右上欄17行ないし左下欄4行)、「こぼれた液体を前記の分与オリフィスに送るドレン手段」(特許請求の範囲1の4行、5行)という記載を併せ考えると、引用例には、本願発明の「環状壁部と共軸に配置され、上記開口を画定……する排出スパウト」及び「このスパウトは上記環状壁部と上記ウェブ部と共に溝部を画定し、この溝部はドレイン口を有してこのドレイン口は、上記容器が直立位置にある時は上記溝部に貯まった流体を上記開口に流出させる」という技術事項が記載されていると解される。
以上のことから、引用例には、実質的に「外面にねじを有する閉鎖キャップに関して使用される排出部を有する容器であって、開口を有する本体部と該本体部から上方に伸びる環状壁部であってその最上部および内面ねじを有する環状壁部、該内面ねじの下方にあり、該環状壁部から内方にかつ上記開口に向かって延びるウェブ部、上記ウェブ部の外周から延長する上記環状壁部と共軸に配置され、上記開口を画定しそして上記最上部を超えて延長する排出口スパウトであって、このスパウトは上記環状壁部と上記ウェブ部と共に溝部を画定し、この溝部はドレイン口を有してこのドレイン口は、上記容器が直立位置にある時は上記溝部に貯まった流体を上記開口に流出させることからなる上記容器」なる発明が記載されていると認める。
(3)本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、両者は、「環状壁部、ウェブ部、排出口スパウトからなる排出部」が、引用例記載の発明では「容器と別体」であるのに対し、本願発明では「容器と一体成形」されている点で相違し、その余の点において一致する。
(4)相違点について検討すると、一般に、成形容器においては、安価に製造するためこれを一体的に成形することは普通に行われている技術手段である(例えば、昭和50年実用新案登録願第66355号の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和51年実用新案出願公開第146163号。以下、「周知例1」という。)、昭和59年実用新案登録願第9665号の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和60年実用新案出願公開第120946号。以下、「周知例2」という。)を参照)から、引用例記載の発明の容器と別体に成形された排出部を、本願発明のように容器と一体成形することは、当業者が容易に想到し得たことといわざるを得ない。
しかも、本願発明の構成全体によってもたらされる効果も、引用例記載の発明及び上記の慣用技術手段から、当業者ならば予測し得た程度のものである。
(5)以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び慣用技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
引用例に審決認定の技術事項が記載されていることは認める。しかしながら、審決は、本願発明と引用例記載の発明との一致点の認定及び相違点の判断をいずれも誤って、本願発明の進歩性を否定したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)一致点の認定の誤り
審決は、引用例記載の「傾斜したドレンバック仕切」は本願発明の「環状壁部から内方にかつ開口に向かって延びるウェブ部」に相当すると認定している。しかしながら、審決の上記認定は、本願発明のドレインバック機構と引用例記載のドレインバック機構の構成の差異を無視するものであって、誤りである。
すなわち、本願発明が要旨とするウェブ部(20)が、縦断面がほぼU字形の溝部(21)を形成するのに対し、引用例記載のドレンバック仕切55は、切頭円錐形上面を有する肩部57とともに、縦断面がV字形で底面が極度に傾斜した溝部を形成するものである。このように複雑な構成の引用例記載のドレインバック機構は、環状壁部(15)及び溝部(21)からなる簡単な構成の本願発明のドレインバック機構と明確に区別されるものであるから、審決の上記一致点の認定は誤りであり、これによって看過された相違点の判断の遺脱が本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
この点について、被告は、本願発明が要旨とするウェブ部(20)は水平方向に延びるものに限定して解釈することはできないと主張する。しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、水平方向に延びるウェブ部のみが記載されており、ウェブ部が水平方向以外の方向に延びることは示唆すらされていないから、被告の上記主張は当たらない。
(2)相違点の判断の誤り
審決は、成形容器を一体的に成形することは慣用技術手段であることを論拠として、引用例記載の容器と別体に成形された排出部を本願発明のように容器と一体成形することは当業者が容易に想到し得たことであると判断している。
しかしながら、本願発明は、従来のセルフドレイン容器が多数の部材からなる複雑な構成のものであって、その製造に特別の工程と多額の費用を要する欠点を有することを解決するため、セルフドレイン容器の構成、特にドレインバック機構を形成する環状壁部(15)の構成を簡単なものにし、閉鎖キャップ以外は一つの成形型で一体成形し得るようにした結果、世界的な商業的成功を得ているものである。
これに対し、引用例記載の遷移部鍔14は、前記のように傾斜したドレンバック仕切55や切頭円錐形上面を有する肩部57等からなる複雑な構成の部材であり、これを容器12と一体成形することは射出成形の技術上不可能である。このことは、引用例に、一体成形の困難性について、「容器12を形成する好ましい方法は吹込成形であって、この吹込成形につづいて金型の両半体を分離しなければならないのであるから、ロック齒82はこの金型分離と干渉しないように形成される。」(4頁右上欄5行ないし9行)、「遷移部鍔14はポリプロピレンまたは類似物などの熱可塑性材料を射出成形して作られ、望ましくは容器12またはカップ16の材料よりも少し硬質とする。」(同欄16行ないし19行)と記載されていることからも明らかである。
したがって、審決の上記判断は誤りである。
第3 請求原因の認否及び被告の主張
請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 一致点の認定について
原告は、本願発明が要旨とするウェブ部(20)が縦断面がほぼU字形の溝部(21)を形成するのに対し、引用例記載のドレンバック仕切55は(切頭円錐形上面を有する肩部57とともに)縦断面がV字形で底面が極度に傾斜した溝部を形成するものであるから、引用例記載の「傾斜したドレンバック仕切」は本願発明の「環状壁部から内方にかつ開口に向かって延びるウェブ部」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
原告の上記主張は、本願発明が要旨とするウェブ部(20)が環状壁部(15)から内方にかつ開口に向かって、「水平方向に延びる」ものであることを前提としている。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲4には、その要旨とするウェブ部(20)については「内面ねじ(27)の下方にあり、該環状壁部(15)から内方にかつ上記開口(12)に向かって延びる」と記載されているのみであるから、これを水平方向に延びるものに限定して解釈することはできない。このことは、本願発明の特許請求の範囲1には、「垂直軸を有するプラスチック容器であって、該垂直軸上または該軸と平行に上方に延長する排出用スパウト(16)、該垂直軸と実質的に垂直な面に沿って、該排出スパウト(16)の下端と一体化しかつ該下端から半径方向外方に延長して形成されたウェブ部(20)、該ウェブ部と一体化しかつ該ウェブ部と連結して形成され該ウェブ部から半径方向外方に離隔しそして上記スパウト(16)を囲み、該スパウトと該ウェブ部と共に溝部(21)を画定する環状壁部(15)」と記載され、そのウェブ部が垂直軸と実質的に垂直な面(すなわち、水平面)に沿って形成されることが明確に規定されていることとの対比からも明らかである。
したがって、本願発明が要旨とするウェブ部(20)が縦断面がほぼU字形の溝部を形成するという原告の前記主張は、本願発明の要旨に基づかないものであって、失当である。ちなみに、審決は、引用例の記載から「円筒形外壁部を上部と下部に分割して横方向に仕切るために設けられているドレンバック仕切を有する容器」の構成を引用したのであって、その具体的構成を引用しているのではないから、本願発明の具体的構成と引用例記載の発明の具体的構成の差異をいう原告の前記主張は、審決の趣旨に沿わないものである。
2 相違点の判断について
原告は、引用例1記載の遷移部鍔14は傾斜したドレンバック仕切55や切頭円錐形上面を有する肩部57等を有する複雑な構成の部材であって、これを容器12と一体成形することは射出成形の技術上不可能であるから、引用例記載の容器と別体に成形された排出部を本願発明のように容器と一体成形することは当業者が容易に想到し得たとする審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら、プラスチック容器製造の技術は、複数の部品からなる組立容器から、一体成形容器へ変化する方向にあり、審決はこのことを示すために各周知例を例示したのである。そして、このような慣用技術手段を参酌すれば、具体的にどのような方法で行うかはともかく、排出部を容器と一体成形することは当業者が容易に想到し得たとする審決の判断に誤りはない。のみならず、各周知例の記載によれば、容器のウェブ部は、それが水平のものであっても傾斜するものであっても、容器本体と一体成形し得ることが明らかであるから、原告の上記主張は当たらない。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
第1 請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)、及び、引用例に審決認定の技術事項が記載されていることは、いずれも当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。
1 成立に争いのない甲第2号証(特許願書添付の明細書及び図面)及び第3号証の2(意見書添付の手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次にように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。
(1)技術的課題(目的)
本願発明は、セルフドレイン容器に関するものである(明細書5頁9行、10行)。
使用時に排出用スパウトの外側に流出またはしたたり落ちた内容物を容器の中に戻す手段を有するセルフドレイン容器は公知であるが(同5頁12行ないし15行)、従来のセルフドレイン容器の大きな欠点は、該容器が多数の部材からなる複雑な構成のものであること、さらに、多くはセルフドレイン機能の付与のために特別の組立工程を必要とすることである(同5頁19行ないし6頁4行)。
本願発明の技術的課題(目的)は、従来技術の欠点を解消したセルフドレイン容器を提供することである。
(2)構成
上記の目的を達成するために、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(手続補正書3枚目22行ないし4枚目5行)。
(3)作用効果
本願発明のセルフドレイン容器は、一体化された単純なユニットから構成され、容器の閉鎖のためのキャップまたは閉鎖具の取付け以外は、“複数の部材の形成およびその組立”という複雑な工程が全く不要である(明細書6頁6行ないし10)。
2 一致点の認定について
原告は、本願発明が要旨とするウェブ部(20)が縦断面がほぼU字形の溝部(21)を形成するのに対し、引用例記載のドレンバック仕切55は(切頭円錐形上面を有する肩部57とともに)縦断面がV字形で底面が極度に傾斜した溝部を形成するものであるから、引用例記載の「傾斜したドレンバック仕切」は本願発明の「環状壁部から内方にかつ開口に向かって延びるウェブ部」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
原告の上記主張は、本願発明が要旨とする環状壁部(15)及び排出口スパウト(16)がいずれもほぼ垂直、ウェブ部(20)がほぼ水平のものであることを前提とするものと考えられる。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲4には、前記のとおり、「本体部(11)から上方に伸びる環状壁部(15)」、「環状壁部(15)から内方にかつ上記開口(12)に向かって延びるウェブ部(20)」、「環状壁部(15)と共軸に配置され、(中略)延長する排出ロスパウト(16)」及び「スパウト(16)は上記環状壁部(15)と上記ウェブ部(20)と共に溝部(21)を画定し」と記載されているのみであって、この記載によれば、スパウトの外側に流出した内容物を容器の中に戻す機能を果たす溝部が形成されておれば足り、環状壁部(15)及び排出口スパウト(16)がいずれもほぼ垂直、ウェブ部(20)がほぼ水平方向に延びて縦断面がほぼU字形の溝部を形成するものに限定されているとすることはできない。原告の前記主張は、本願発明の要旨に基づかないものであって、失当である。
一方、引用例記載の発明の特許請求の範囲1に「こぼれた液体を前記の分与オリフィスに送るドレン手段」と記載されていることは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第6号証の1によれば、引用例記載の発明の特許請求の範囲8には「ドレン装置は前記遷移部鍔の中を横断し通気/ドレン穴に向かって傾斜した横方向仕切を含み」(2頁左上欄11行ないし13行)と記載されていることが認められるから、引用例記載のドレンバック仕切は、セルフドレインの機能を果たすためにドレイン穴に向かって傾斜しているものであればよいことが明らかであり、これを原告主張のように「縦断面がV字形で底面が極度に傾斜した溝部を形成するもの」に限定して解釈すべき理由はない。
したがって、引用例記載の「傾斜したドレンバック仕切」は本願発明の「環状壁部から内方にかつ開口に向かって延びるウェブ部」に相当するから、この構成において両者は一致するとした審決の認定に誤りはない。
3 相違点の判断について
原告は、引用例1記載の遷移部鍔14は傾斜したドレンバック仕切55や切頭円錐形上面を有する肩部57等を有する複雑な構成の部材であって、これを容器12と一体成形することは射出成形の技術上不可能であると主張する。
しかしながら、引用例記載のドレイン装置は、前記2認定のとおり、傾斜した横方向仕切を含み、注出口と外周壁との間に介在してこれらを連結する面からなる構成であって、原告主張のような複雑な構成を不可欠とするものではない。そして、成立に争いのない甲第6号証の2によれば、周知例1は名称を「流れ止め付容器」とする考案に関するものであって、「注出口2を有する容器1の注出口基端部付近に、上方へ突出する環状突起3を突設し環状突起の内がわに沿って断面凹条の溝4を溝の一方がわが深い傾斜溝に形成すると共に溝の最深部にスポンジ等の吸液体5を挿着した流れ止め付容器」(明細書1頁4行ないし9行)、「容器を合成樹脂材をもって形成する場合は一体形成が可能で安価に製作でき、簡単な構成で有効適切な容器を提供する」(同3頁5行ないし7行)と記載され、同じく甲第6号証の3によれば、周知例2は名称を「容器、キャップ等の口部」とする考案に関するものであって、「容器と一体成形された容器の口部又は容器と別体成形され且つ容器に装着・取外し自在としたキャップの口部において、注ぎ口の下方外周に液体受部を形成し、液体受部の受面を傾斜面にし、受面の低い部分に液体が流れ込む回収口を開設してなる容器、キャップ等の口部」(明細書1頁4行ないし9行)、「構造が簡単であるため実用化し易く、しかも大量生産するのに適するため低廉な容器やキャップを提供する」(同4頁18行ないし20行)と記載されていることが認められる。
これらの記載によれば、本体とその排出部とを一体成形することによって容器を安価かつ大量に製造することは、本願優先権主張日前の周知技術であったことが明らかである。のみならず、前掲甲第6号証の2、3によれば、周知例1、2添付の各図面に図示されている容器のウェブ部はいずれも傾斜していることが認められるから、傾斜したウェブ部を有する排出部を容器本体と一体成形することも、本願優先権主張日当時、何ら問題なく実施されていたと考えることができる。原告提出の甲第7号証の1の1、2(THOMAS J.KRALLの宣誓書)は、本願明細書添付のFIG.5に図示されている成形機では引用例のFig.4に記載されているように極端に傾斜したウェブ部を有する排出部を容器本体と一体成形することが困難であることを説明するものにすぎないから、上記判断を左右するものではない。
また、原告が引用例記載の発明において一体成形が困難であることを示している根拠として挙げている引用例の記載内容は、「環状壁部、ウェブ部、排出スパウトからなる排出部」が容器と別体に構成されていることから、図示の実施例記載のものについてこれを結合する技術的手段を開示しているにとどまり、同発明において一体成形が困難であることの根拠となるものではない。
したがって、引用例記載の発明において、前記周知技術に基づき、容器と排出部とを一体に成形することは当業者であれば容易に想到し得たことであり、それによって得られる前記1記載の作用効果も、上記のように構成することにより当業者が当然予測し得た範囲内のものにすぎず、原告主張のように本願発明の実施品が商業的に成功したということは作用効果の予測容易性を左右するものではいから、相違点についての審決の判断にも誤りはない。
4 以上のとおりであるから、審決の認定判断は正当として是認し得るものであって、本願発明の進歩性を否定した審決に原告主張のような誤りはない。
第3 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための期間附加について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 山田知司)
別紙図面A
第1図は、本発明の容器、およびその上部に取付けられる容器用キヤツプを示す斜視図である。
第2図は、キヤツプを所定の位置に取付けた容器の上部の一部を示す一部切開斜視図である。
第3図は、第1図記載の容器の上部を示す拡大斜視図である。
10……容器; 11……本体部;
12……開口; 14……排出部;
15……壁部; 16……排出用スパウト;
20……ウエブ部; 21……溝部;
23……ドレイン口; 26……ドレイン口;
27……ねじ山; 30……キヤツプ;
32……側壁部; 33……密閉リング;
34……スカート部
<省略>
別紙図面B
<省略>
12…容器、14…開、16…計 カツプ、35…シール面、37…カップ開口、38…肩部、39…臀部、40…ねじ山、50…外周壁、52…口、53…シール面、54…通気/ドレン穴、55…ドレンバツク仕切、56…臀部、57…肩邸、58、64…ねじ山、59、62…シールリング、68…ロツク歯、70…臀部、72…端部、74…容器本体、75…ねじ山、82…ロツク歯。